一と二分の一の人形のはなし(ふたりと呼ぶには不十分、ひとりと呼ぶには手に余る)

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せっかく休日なのでイラスト更新、ちょっとした物語付き
以下全体像と文書格納↓↓
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 秋も大分深まって、木枯らしが木の葉を舞い上げるカサカサという音がひとけのない街路に虚しく響いている、そんなある日のこと。
ベルベッティエーの郊外、大資産家アガッテオ・ボールドウィン様に買い取られたそれはそれは大きな古めかしいお屋敷の門の前で、わたしは掃いても掃いてもハラホロリンと舞い戻ってくる木の葉の大軍と格闘をしている最中よ。

 「アネット…アネット!」

ああ、メイド長が呼んでるわ、行かなきゃ。

 「アネット、玄関はもういいから物置の掃除をお願い」


ミスター・ボールドウィンは数日前にご家族と一緒にこのお屋敷に越してらしたの。奥様はそれはそれはお綺麗な方で、女の私でも思わずため息が出ちゃうくらい。一人娘のカーミラ様も奥様に似てまるでアンティークのお人形みたいに愛くるしいのだけど、甘やかされて育ったせいか少しわがままなところがあるのよね。何かあったときにお嬢様のおもりをするのは使用人の中で一番年の若い私の役目なのだけど、これが結構な重労働。この前もお嬢様に髪の毛をギュウギュウ引っ張られて、お嫁入り前なのに頭のてっぺんがみじめなことになっちゃうんじゃないかと思ってちょっと焦ったわ。
ああいけない、話題がずれたわね。それでね、話を戻すと、せっかちな旦那様ったら新しく手に入れたお屋敷で一日でも早くパイプ煙草をふかしながら暖炉の前でくつろぎたかったとみえて、まだ掃除も行き届いてないってのにさっさとご家族と使用人をまるごと連れてベルベッティエーまで鉄道の旅。汽車って初めて乗ったけど、景色がすごい速さでびゅんびゅん後ろに流れていくのはちょっと素敵だったわ。
そんなこんなでたいして準備も整わないうちに勢いでやってきてしまったのだけど、長いこと人の住んでいなかったお屋敷だもの、歩けばおでこにクモの巣のヴェール、舞い上がるホコリでスカートは純白、ああまるで花嫁さん気分だわ。タタタターン、タタタターンって教会オルガンの荘厳な音が今にも聞こえてくるんじゃないかって具合。こんな状況じゃ暖炉でくつろぐなんてとてもじゃないけど無理ですわよ旦那様!
その後はもう大変、使用人総出で大掃除よ。左手に箒、右手に雑巾、クモの巣払って家主気取りのネズミを追いだして、壁から床から天井からピッカピカになるまで磨き上げるの。
一番きつかったのは一日目で、舞い上がる塵にくしゃみと涙でくしゃくしゃになりながら、とにかくその日寝る場所を確保したわ。二日目、三日目と徐々に仕事が楽になっていって、屋敷もだんだんとそれらしく生まれ変わっていったの。それで今日、四日目ね、もう生活圏はおおかた綺麗にしちゃったから、あとは屋根裏だの物置だの、普段使わないような場所を整理するだけ。私たち、よくよく頑張ったわ。そう思わない?

ああ、メイド長の言ってた物置ってここのことね。そうよねメイド長?
やだちょっとこの扉ずいぶんたてつけが悪いわね、うん、しょ!っと。ふう。くたびれた。
どれどれ…ふーん、ホコリの積もり具合は概ね予想通りね。
よし、このアネット様がキレーサッパリにしてやるわ。あんたたち覚悟なさい。

 なーんて考えながらがむしゃらにあちこち拭き掃除を始めたわ。ふと頭をあげると、文字盤にヒビのいった妙に古めかしいデザインの振り子時計。ああ、これはもう使い物にならんね、と知ったかぶりの古美術商っぽく呟いてみると、その上に二体の人形がちょこんと腰かけてこっちを見てるじゃないの。
あら素敵。そう思った自分の気持ちを無駄にしないためにも、雑巾を床に投げ捨てヅカヅカと例の古風な振り子時計に歩み寄って、暫くのあいだこの愛らしいカップルをじっくり観察することにしたわ。お掃除はちょっとだけ中断。
二体のお人形はどうやらそれぞれ一体ずつ男の子と女の子だわ。向かって左側に品のいい身なりの少年、右側にふわふわの髪と愛らしい黒いドレスに身を包んだ少女、仲良さそうに手をつないで…と思ったら、あら、なあに?これ、肘から先がつながって一本腕になってしまっているじゃないの、どういうことかしら。それに、あらいやだなんで気付かなかったのかしら、髪の毛かき分けてみたらこの男の子、顔の右半分がボロボロに崩れちゃってるじゃない、なんだか少し気味が悪いわね。「いわくつき」ってやつかしら?でもそういう話ってみんな結構聞面白がって聞きたがるのよね、私も好きだもの。
おまけにこの子たち、瞳の色がおんなじなのね。不思議な輝きだわ、これなんて色だろう。

 「アネット…アネット!」

 「はーいお待ちになって、もうすぐ片付きますわメイド長!」

あぶないあぶない、さぼってたのがばれたらまたあの鬼メイド長にこっぴどく叱られちゃう。今はとっとと自分の仕事を片づけるのが賢明ね。ああ、それにしてもあの人形には一体どんなエピソードが隠されているのかしら!?多分きっと飛びきりドラスティックでペシミスティックな悲恋か何かだわ…ああ、気になって夜も眠れない!


 私、その日からメイド長の目を盗んでは綺麗に片付いた物置に忍び込んで二人同体のそのお人形を眺めながら私の知らない二人のエピソードについて思いを馳せるようになったわ。

 そうね…多分二人はきょうだいかなにかで、だってほら瞳の色がおんなじだもの、それでね二人は愛し合っていたんだけど、それをまわりが許さなかったの。親とか親戚とか、そういうことにはうるさいじゃない?まわりは二人をなんとか引き離そうとするんだけど、二人の気持ちは変わるどころかどんどん強いものになってゆくの。そしてとうとうクライマックス。二人は永遠の愛を誓うと、二度と離れないようにお互いの腕をきつく縛って海にドボン!ああ、なんてこと!それでその一部始終を知った屋敷お抱えの人形師が、二人の悲恋を悼んでこんな人形を作りましたとさ。めでたしめでたし。…ああ、悲劇だわ。


 「アネット!そこにいるの!?」

 「きゃーっ!はい、いますわメイド長!ごめんなさい、すぐに仕事に戻りますから…」

 「ちょうどよかった、物置の中のものを運び出すのを手伝って頂戴」


何でも今日はこのお屋敷の古い家具だの何だのを古美術商が鑑定しにやって来るらしいわ。旦那様がお呼びになったんですって。

 数えきれないほどの威風堂々とした骨董家具が広々とした玄関ホールで一同に会するその様は、まさに壮観の一言につきるわ。部屋中をぐるりと見渡してみると、その一等左端の隅っこの方にあの一対のお人形が控え目にひっそりと腰かけているじゃないの。いやだ、あのお人形まさか売っ払われたりしないわよね…

黒い背広に身を包んだ恰幅のいい古美術商が、きれいにカールしたカイゼル髭を左手の親指と人差し指で大事そうにつまみながらツカツカとやってきて、旦那様に慇懃なあいさつをした。小太り古美術商はてらてら光るおでこの汗をハンカチでぬぐって(旦那様は暖炉の火をあんまり強くたきすぎなのだわ)右端の方から順に品評をはじめたの。例の古めかしい振り子時計を見て、「ふうむ、これはもう使い物になりませんね」と一言。あの物置に初めて入った日のこと思い出して、ちょっと笑いそうになっちゃったじゃない。

そんなこんなで小一時間が過ぎようとしていたころ、ゆるやかなカーブを描いて玄関先から二階へと伸びるビロードの中央階段を、軽やかなステップで駆け降りてくる愛らしい少女がひとり。あらいやだ、カーミラお嬢様だわ。

 「うわあ、すごい、なあにこれ、お父様!」

お嬢様は玄関ホールの大集会を見ると、パッと瞳を輝かせてダダダ、と、巨大な家具のあいだを無邪気に駆けまわりはじめた。お嬢様にぞっこんの旦那様は注意をするどころか、ニコニコ笑って娘のおてんばを眺めているじゃない。どうしよう、私止めに行くべきかしら?

玄関ホールの右側から家具群に突入して、間を縫って中央玄関の前、途中古美術商とおとーさまの前で見せびらかすようにひらひらくるくるまわってみせたかと思うと、そのままちょこまかとホールの左側へ。次の瞬間、お嬢様の悲鳴じみた歓声が広いホール全体に響き渡った。

 「きゃあっ素敵!」

グランドピアノの上にひっそりと腰かけている例の人形を発見したに違いないわ!私は急いでお嬢様にお声をかけようとしたけど、もう遅かった。
お嬢様の悲鳴じみた歓声は、一瞬にして本物の悲鳴に変わった。
旦那様と古美術商と屋敷中の使用人、それから奥様が、一斉にお嬢様の元へ駆けつけたの。その様子ったらもうすごくて、飴玉にブワーっと群がるアリンコみたいだなって思ったわ。

無邪気なお嬢様、宝物を見つけたと思ったんでしょうね。
きっと駆けよっていってあの美しいカップルを抱きしめてやろうとしたにちがいないわ。
けれどピアノの上を滑り落ちてお嬢様の腕の中にあらわれたのは、予想に反してそれはそれは醜い半身の少年だった。
お嬢様はまだ子供だもの、びっくりして悲鳴をあげてしまっても仕方ないわよね。
ああ、かわいそうにカーミラお嬢様、奥様の腕の中で泣きじゃくっているわ。
だけどね、そのお人形に罪はないの。
彼らはただそこにいただけなの。
なあんにも悪くないのよ。
だからお嬢様、お願いそんなことおっしゃらないで。
恐ろしくて夜も眠れないだなんて。
さっさと壊して捨てて頂戴だなんて。
ああ、よして旦那様、二人をどこへ連れてゆくおつもりなの?
そっちは赤々と燃えたぎる暖炉があるだけだわ
ああ、いやよ、やめて、やめて…


 バシッ!


二人は渦巻く炎の中へ容赦なく投げ込まれ、パキ、パキと乾いた音をたてて燃えはじめた。
ああ、かわいそうな私のお人形さんたち。
少年は自分のせいで少女まで燃やされてしまうことに罪の意識を感じているかしら?
それとも二人一緒に死ねてしあわせかしら。
どうかしら、わからないわ。
だって私一緒に死にたいと思えるような素敵な殿方にまだ出会ったことがないもの。

あの二人のエピソードだって、本当のところはどうなのか分からないじゃない。
例の奇っ怪な腕のかたちにしたって、何か由来があるのかもしれないし、はたまたあの子たちをつくった人形師のほんのたわむれかもしれない。
そうね、どうせ私には何もわからないわよ。
だけどあの子たちは確かにそこにあって、ちゃあんと魂を持ってたのよ。
だってこの私があの子たちを愛でたもの。
まあそれももう跡形もないくらいチリヂリの燃えカスになっちゃって、明日の早朝使用人の手によってたきぎの灰と一緒に処分されるのだけど。
さよなら、愛してたわ、天国でも二人でしあせにね。
縁があったらまたきっとどこかで会えるわ、それまでどうかごきげんよう。





          オシマイ

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イラストは…
lost child >> マクベス&ウィズ

彼らの不毛な「二人あやとり」的共犯関係をちゃんと描いていくのがLCの一つの目標です

| 小説(絵付) | 15:59 │Comments0 | Trackbacks0編集

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